森 博嗣 『工学部・水柿助教授の日常 』

 水柿君は奥さん思いだから、いつしか、自分の身の回りで起こるなにげない細やかな不思議を心に留めて、それらの中から厳選したものを彼女に披露するようになっていた。水柿君は、論理的思考力の持ち主なので、実際にあった話を、より簡潔にわかりやすく整理し、順序立て、無駄を拝し、面白い点は強調して、ストーリィを再構成することにも、特に苦労を感じなかった。奥さんが目を輝かせて聞き入る光景を眺めていられることは、彼にとって非常に有意義な経験だったし、不純なのか純粋なのか微妙なところではあるが、それが水柿君の動機だったのだ。


工学部・水柿助教授の日常
森 博嗣
幻冬舎
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