中平卓馬『なぜ、植物図鑑か』

 だがいま、まさしく世界は作家の、人間の像、観念を裏切り、それを超越したものとして立ち現れてきているのだ。作家が、芸術家が世界の中心である、あるいは世界は私であるといった近代の観念は崩壊しはじめたのだ。そしてそこから必然的に作品を芸術家がもつイメージの表出と考える芸術観もまた突き崩されざるを得ないのは当然のことである。そうではなく世界は常に私のイメージの向う側に、世界は世界として立ち現れる、その無限の<出会い>のプロセスが従来のわれわれの芸術行為にとって代わらなければならないだろう。

なぜ、植物図鑑か―中平卓馬映像論集 (ちくま学芸文庫)
中平 卓馬
筑摩書房
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