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『倉本聰の世界』

 僕は二年前に東京を捨てた。
 北海道の中央部、十勝連峰と芦別夕張山系に抱かれる富良野という町の町はずれ、小さな森の中に住んでいる。
 東京をはなれたこの土地に根を下ろしながら色々なことを経験した。何よりも此処に暮らしてみて人間関係の輪を拡げる中で最も切実に感じることは、此処には生活を金で買わない人々がまだまだ生きているということであった。
  僕らは東京(都会)の暮らしの中で不便さを金で解消しようとする。何か困ったことが起きた時、それを、誰かに、金を払って解決してもらう。そういう生活に 馴らされてしまっている。一つの困難に遭遇した時、僕らは簡単にあきらめる。あきらめ、誰かに頼ろうとする。しかしこっちの人々は頼るという習慣を知らな いかのようである。
『やってみねば判らんでしょう』
『やってみるさ、そのうち何とかなるンでないかい?』
その哲学が厳然とある。
これは僕たち脆弱な都会人にとって甚だショックな思想である。


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