水上勉『土を喰う日々』

この焚火焼きで思い出すことの一つに、やはり和尚さまが、やってみせた渋柿の灰焼きがある。渋柿というのは若狭などでは大四郎柿とよんだ、先のとんがったヤツだが、これは熟柿になるのを待たないと喰えないのを、少し固いくらいのを、和紙か銀紙につつんで焚火の中へくぐりこませておくのだった。頃あいをみてとり出して、やはり何かの枝の先で刺して、よく焼けていそうだったら、これを皿にのせる。そうして、あらかじめ用意しておいたはったい粉(これも若狭や京都のよび名だが、信州あたりではどういうのか、煎ってひいた大麦の粉のことだ)を小鉢に入れ、熱く焼きあがった柿をつぶしながら入れて、粉もろとも、竹の箸で力づよくカクのである。この場合少し砂糖を入れてもいい。何としばらくやっていると、箸が折れるぐらい固い餅になってしまう。これを適度に丸めて、頬張るのだ。何ともいえぬ柿の甘さが、はったい粉とまじり、形容しがたい味になっている。和風即製チョコレートとでもいっていいか。似たものに、小布施の落雁の味があるが、あれは栗が材料だから、柿の甘さにはかなわない。黒砂糖をこねたようなねっとりした甘味なので、子供にもよろこばれようし、大人ももちろんうれしいのである。渋の少しのこっているところも野味だ。

土を喰う日々―わが精進十二ヵ月 (新潮文庫)
水上 勉
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