塚本邦雄『異国美味帖』

 私はイタリアに詳しいわけではない。四度ばかり、それぞれ半月前後をかの地で過したに過ぎぬ。北はミラノ、南はマテーラ、東はアルベロベッロ、西はパレルモあたりを限りとして、コモも未踏、レッチェもタラントも知らず、コルシカやサルディーニャにも渡っていない。だが、そのマテーラやアルベロベッロ、あるいはシチリアシラクーサやアグリジェント、ウンブリア地方のプルージアやアッシジで飲むエスプレッソのうまさは形容を絶する。それも別に「喫茶店(キャフェ)」などではなくて、客が十人も入ったら満員の「バール」で、砂糖散乱するカウンターの上へ、無造作におかれるエスプレッソが、例外なくうまい。




異国美味帖
異国美味帖
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塚本邦雄
幻戯書房
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