荒川 洋治 『黙読の山』
Mさんの家は、道の向こう側の丘。谷間をはさんだ向こう側なので、遠い。Mさんの家に向かう母の姿は、いったん消える。しばらくして、向こう側にあらわれるのを子供のぼくは窓から見ていた。一日のなかに一度だけあらわれる、楽しいものでも見るように見ていた。
Mさんの家は、道の向こう側の丘。谷間をはさんだ向こう側なので、遠い。Mさんの家に向かう母の姿は、いったん消える。しばらくして、向こう側にあらわれるのを子供のぼくは窓から見ていた。一日のなかに一度だけあらわれる、楽しいものでも見るように見ていた。