名取洋之助『写真の読みかた』

 写真の、この困った特性は、『犬』を文字でなく、写真で表そうと考えた場合、さらに明瞭になります。辞書によると、『犬』とは、『食肉目いぬ科の獣。よく人に馴れ、性怜悧勇猛で、嗅覚と聴覚が発達し、狩猟用、番用、軍用、警察用、労役用、愛玩用として広く飼養される家畜』と定義してありますが、それを写真で表現するとなると、文字のようにはかんたんではありません。『犬』の写真は撮れても、辞書にあるような『犬』は表現できないのです。それはダックスフンドであったり、シェパードであったりします。いや、ダックスとか、シェパードとか、犬の種類と理解されればまだよい方で、犬をよく知らない人がみれば、それはおかしな恰好をした犬とか、強そうな犬とか、こわい犬、にくらしい犬というように、読む人の固有の感じに理解されます。また逆に、犬の専門家であれば、手入れの悪いダックスとか、あまり血統のよくないシェパードと読むかも知れません。

写真の読みかた (岩波新書)
名取 洋之助
岩波書店
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