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今和次郎『日本の民家』

 何らの資本ももたず、ただ健康な体躯を頼りとし、遠くの原野へ、まだ人の手の入らない草と雑木の生えている土地へ、自分たちの運命を開くために開墾という労作をしに行く人たちは、将来立派な自分の耕地としようと夢見ているその土地にたどり着いて、どんな家を建てて、まず自分たちの寝起し休息する場所としなければならないか。そこに辛苦がある、私はここでこれらの貧しい人たちが作っている小屋のはなしからはじめようと思う。
 専門用語で言えばそれらは移住小屋と呼ばれている。資本がないからそれらは全然自給で作らなければならない。その土地から得られる材料で、出来るだけ早く、飾りもそっけもなく、むき出しに、自然が生きている人間が家なしで居る事をゆるさないから、しかたなしにその工作をはじめなければならないのである。彼らはいそいで木の枝を切り集める。草を刈り集める。そしてとにかく彼らの休場が出来る。追々と彼らは一と月も二た月も住める家に補って行く。四季を通じて住い得るまでにするのに実に色々の工夫が要る。そして彼らは本当の自給で1年なり2年なりまたは4、5年なり、そこの畠が充分熟するまでそれに住まなければならないのだ。空想でなくそれを実際にやらなければならない事は随分みじめである。しかし彼らこそ大きな野の上に孤立して極度の単純生活を堂々と営んでいるんだと思うと、またたまらなく羨ましく感じられて来る。彼らこそはっきりと祖先から何も与えられない裸のままで自分たちの生活を築きにかかり、防備の工作をその家に漸次に盛って行きつつあるんだと言っていいのだ。

日本の民家 (岩波文庫)
今 和次郎
岩波書店
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