高橋世織『感覚のモダン』

 近年まで、大多数の美術館は、光によってコントロールされた壁面至上主義が横行し、しかも『作品に手を触れないで下さい』という、すこぶる強権的な力がみなぎっている空間が『美術館』という名の身体器官強制装置であった。(中略)
 世界に触りたい。そうした欲望は美術館に限らず<近代>が束になって必死に抑圧してきたものでもある。その結果、触れるものは、本当に限られた個物になってしまった。我々は、限りなく透明なかたちで世界から隔てられてしまった。物理的、倫理的、政治的、経済的なさまざな制約によって隔てられてしまた。その代替として。<まなざしの近代>は肥大し、<まなざし>という身体の延長物を発展させてきたにすぎない。


感覚のモダン―朔太郎・潤一郎・賢治・乱歩
高橋 世織
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