磯崎 新 『建築における「日本的なもの」』

浄土寺浄土堂の建物を今日風に記述すると次のようになる。
六メートル間隔で円柱がグリッド状に十六本配され、平面は正確に正方形である。中央にある四本の柱が四天柱と呼ばれ、内陣となり、この中心に円形の台座が おかれ、約五メートルの阿弥陀仏の彫像が立ち、二本の脇侍仏が両側にひかえる。内部は木板の床が張られ、彫像以外にまったく装飾物はない。構造体が露出 し、天井による空間の分節はなされていない。
正方形平面にピラミッド状(宝形寄棟)に屋根がのせられ、本瓦で葺かれている。背面をのぞいて、三方に一・五メートル幅の濡れ縁がまわされ、中央部に切石 で昇り段が組まれている。軒の出はニ・五メートル。軒先の垂木の端部に鼻隠しが直線的に打ちつけられている。屋根にわずかな反りがあるが、錯覚矯正程度。 その勾配は十◯分の六。
構造上の特徴として、柱間を貫き材が貫通し、同時に軒の出のキャンティレバーや柱の頂部を緊結するため、柱にさしこまれた挿肘木が多用されている。六メー トルは木造としては大スパンであるため、その柱の中間点に遊離尾垂木と呼ばれる斜材を天秤の原理でバランスをとってさしこみ、二次的横架材(母屋)を支え ている。外陣にあたる部分の上部は円形断面をした虹梁が三段に組まれ、すべて露出されている。
東側の正面は各柱間に桟唐戸がはめられ、中央のものは開口部一杯の背がある。扉の上部に採光用の格子がつけられている。西側は、全面的に蔀戸になっている。



建築における「日本的なもの」
磯崎 新
新潮社
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